議会内で法案などの採決や投票が行われる際に、時々見掛けるのが「牛歩戦術」です。
国会中継やニュース報道などで見掛けたことがある人も多いかと思います。
正直なところ「ちょっと見苦しい時間稼ぎ」「そんなことをしてもどうせ法案は成立するのに何故?」と思ってしまう人もいらっしゃることでしょう。
私自身も「牛歩戦術は何のためにどういう意味や目的があって、実際どんな効果があるのか」ということが気になったため、調べてみた結果を記事でご紹介したいと思います。
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もくじ
牛歩戦術の意味や目的や効果とは
牛歩戦術とは
そもそも「牛歩戦術」とはどういうものなのでしょうか。
牛歩戦術(ぎゅうほせんじゅつ)とは、議会内での投票の際、呼名された議員が故意に投票箱までの移動に時間をかける行為である。牛の歩みのようにゆっくりと移動することからこの呼び名がある。日本の国会において少数派が議院規則の範囲内で議事妨害を行う手段の一つとして用いられる。
【引用元】ウィキペディア「牛歩戦術」
定義だけを見ると「議事妨害を行う手段」などと書かれているために、「やはりけしからん」「見苦しい」「無意味な時間稼ぎをせずにちゃんと仕事をしろ」と思ってしまうのも無理はありません。
意味や目的は?
牛歩戦術について調べていくと、実は深い意味と目的がちゃんとありました。
- 議場(議会が開かれている部屋)を一度出てしまうと、その議会が終了するまで議場に入れないという決まりがある(議場閉鎖)。このため、たとえば賛成派議員の中からトイレを我慢できなくなって、投票する前に部屋を出る議員が現れてくれれば、その分賛成票を減らすことができる。
- 午前0時、つまり日付が変わった時点で投票が終了していない場合は、その投票自体が無効になるという決まりがある。このため、議題の可決をある程度先延ばしすることができる。
- 法案は、国会の会期中に可決するか、継続審議の手続きを行わないと廃案となる。会期末まで牛歩を続ければ、理論上は廃案にできる。
【引用元】ウィキペディア「牛歩戦術」
1つ目は、牛歩戦術によって時間稼ぎをすることで長丁場となった場合、「賛成派の議員が投票前にトイレのために議場から出てしまうことで賛成票を減らす」という目的。
2つ目は、牛歩戦術によって時間稼ぎをすることで日付が変わってしまった場合、「投票自体が無効となり議題を先延ばしする」という目的。
3つ目は、牛歩戦術によって時間稼ぎをすることで会期中に可決も継続審議も行われなかった場合、「法案を廃案にする」という目的。
上記3つの深い意味と目的があって牛歩戦術をされていたわけですね。
しかし、そう簡単にトイレのために議場から出て行ったり、法案を先延ばしにしたり廃案にすることが可能なのでしょうか。
効果があまりないのだとしたら「やっぱりあまり意味がない」のではないでしょうか。
効果はある?
結論から言うと「牛歩のみで妨害が成功した例は少なく、効果はあまり期待できない」というのが現実です。
歴史上、最初に牛歩戦術が行われたのは、1929(昭和4)年の衆議院で「小選挙区法案」を阻止するために、当時の立憲民政党が牛歩戦術を使ったのが始まりと言われています。
もう90年も前から行われていたのですね。
そして、牛歩戦術が実り結果的に小選挙区法案の阻止に成功しています。
議会の場で牛歩戦術自体によって結果的に成功したのは、記録上1948年の長野県議会での「長野県の分県案」可決阻止が最後となっています(国会ではないんですね)。
ちなみに、1987年の衆議院での「売上税法案」の際は、「予算委員長解任決議案と大蔵大臣不信任決議案」の採決に対して野党が牛歩戦術を行いましたが予算案は可決通過しました。
しかし、直後の統一地方選挙で与党が敗北したことで、「結果的に売上税法案廃案で与野党が合意した」という流れのため牛歩戦術自体での成功には含んでいません(ウィキペディア「牛歩戦術」より)。
ということは、もう70年以上も牛歩戦術は成功していないことになります。
ここ数十年で牛歩戦術が失敗している理由は「議長による投票打ち切り」となっています。
これは…効果があるとは言い難い状況ですね。
隠された意外な効果とは
牛歩戦術は70年以上も失敗していて、ここ数十年は議長に投票を打ち切られてしまっている状況では「やはり無意味で効果もない不毛な時間稼ぎのパフォーマンス」に見えてしまいます。
しかし、実は牛歩戦術にはもう1つ隠された(隠すつもりも必要もないのでしょうが)意外な効果が期待できるのです。
それは、牛歩戦術による「パフォーマンス」や「採決や投票が不調になる」ことで、マスメディアが報道し多くの国民の目に触れるという効果になります。
つまり、良い意味でも悪い意味でも「注目を集める」のです。
国民の注目を集めることによって、それまで国会でどんな法案が通されようとしていたか興味さえ無かった人の目にも触れますし、マスコミも社会の公器として社会性と公共性を持って事実をありのままに報道することで、可決されようとしている法案を掘り下げて国民に伝える可能性が大きくなります。
つまり、牛歩戦術によって多くの国民が、国会で成立しようとしている法案について「知る」「理解する」「判断する」機会を得ることができるのです。
ですから、牛歩戦術を目にしたら「良い大人が無意味なパフォーマンスをしているよ」などと呆れるのではなく「良い大人が無意味なパフォーマンスをしなければならないような法案が通されようとしているのではないか」という目で見ることが必要なのです。
最後に
今回は、牛歩戦術の意味や目的と隠された効果について記事を書きました。
ここ数十年間、牛歩戦術での成功実績がないことからあまり効果的であるとは言えないのも事実です。
しかし、実は隠された意外な効果を狙って行われている可能性もあります。
もちろん、この隠された効果の是非には賛否両論あるかもしれませんが、「そういうこともあるのか」ということを知っておいても損はないかと思います。
少しでも皆様のご参考になれば幸いです。